コロナ禍が長引く中、VR(仮想現実)がソーシャルディスタンス(社会的距離)をコントロールする役割を果たすコンテンツとして注目を集めています。
新型コロナウィルスの感染拡大によって、演劇や音楽イベントのライブエンターテイナーとオーディエンスがサービスを体験する距離感が大きく変わりました。ウィズコロナの中で、ソーシャルディスタンスという今までになかった距離感が求められるようになったからです。
しかし、これまでダイナミックなサービスの提供を受けることに慣れてきたオーディエンスはその距離感に戸惑います。それはエンターテイナーも同じで、その距離感をライブで提供する術を失ったのです。
それは飲食業界やスポーツクラブなども同じで、顧客が減り、演劇や音楽、スポーツなどを含めたライブコンテンツを提供する側は新たな配信先と収入源を探しています。
そのような中で、VRはあらゆるエンターテインメントを総合的に提供する、ウィズコロナ時代からアフターコロナ時代にかけての新しいコンテンツとなり得るのかを検証してみたいと思います。
第1章 VRはエンタメ界のソーシャルディスタンス問題を解決出来るのか?エンターテイナーとオーディエンスの距離が収益性を変える!
コロナウィルスの影響拡大により、世間ではソーシャルディスタンス(社会的距離)という聞きなれない言葉が注目されています。このソーシャルディスタンスこそが、エンターテインメント業界の悩みの種となっています。
ソーシャルディスタンスがエンターテインメントに与える影響
ソーシャルディスタンスとは、人が密な状態にならないようにある程度の距離を保つように使われている言葉です。これまでのエンターテインメントに関するイベントは、基本的には「密を楽しむもの」がほとんどで、ソーシャルディスタンスという概念はありませんでした。
ウィルス感染という目に見えない敵から身を守る術として、ソーシャルディスタンスを確保するという観点から密になってはいけないという今、エンターテインメント業界が行き場を失っているのです。
新しい投影型VRでソーシャルディスタンスを確保する
ソーシャルディスタンスを考える世において、これまで主流だったヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD・ゴーグルタイプのVR)は限界を迎えています。それは、コロナ禍によってHMDを使い回すことが敬遠されるようになったからです。
そこで注目されているのが、プロジェクターによるVRシステムです。HMDのために作成した映像をプロジェクター用の投影映像に作り変えることで、空間全体をプラネタリウムのような空間にし、ソーシャルディスタンスを保つことが可能になりました。
矢野経済研究所(東京都中野区)がまとめた調査結果によると、VRや360度映像などの国内での市場規模は2019年の見込み段階では約3951億円となっており、2016年からのVRブームは個人向けHMDによってけん引されてきましたが、まだ大きな普及規模には至っていません。そこで、多人数を収容でき、ソーシャルディスタンスも確保できるプロジェクター型のVRシステムに注目が集まっているのです。
第2章 VRシステムの普及の鍵はコンテンツの充実にある!
VRの素晴らしいところは、人数の多さに関わらず、通常ではありえない体験を出来るところです。ドローンで撮影した360度展開する映像による空中散歩や、音楽ライブのステージにのぼる臨場感の体験、陸海空の大自然などの、普段では絶対に立ち入ることができない場所にも映像を通じて踏み入ることが容易にできるようになったのです。
さまざまな場所で導入可能な投影型VR
今では、VR用の360度カメラといった撮影機材は入手しやすくなっており、VRコンテンツ制作の参入障壁は増々低くなっています。さらには、超高画質カメラの開発も進み、室内外を問わず演劇の舞台やライブ会場、観光地などの美しい画像のVRコンテンツを制作することができるようになりました。これらを飲食店やライブハウスなどで360度の広角に投影することで、その空間全体で臨場感あふれる体験をすることが可能となったのです。
たとえば、実際にいる場所がレストランでありながらにして、野球場の観客席で応援しているかのような体験が出来たりすれば、隣の人も一緒に盛り上がることができますし、子ども連れやカップルでも球場へ出かけるよりも気軽に安心して楽しむことができます。
それ以外にも、現地に出向いてもできない体験ができるのがVRの新しい視点です。ナイアガラの滝を真上からみたり、アフリカのサバンナの上空から野生動物を見学したりすることは、そう体験できるものではありません。しかしプロジェクターやHMDを使うことで、家族や友人たちとソーシャルディスタンスを保ちながら安全に、見たい・行きたい場所を体験することができるようになったのです。
VRコンテンツ制作の課題は?
VRコンテンツ制作の課題は、いかにそのコンテンツを充実したものに出来るかです。音楽や芸能アーティストやスポーツ関係などの配信には放映権の権利問題があります。コンテンツ制作を急いでも、体験をしたいという需要が無ければ制作費用も権利費用も思うように下がることはありません。
いまは、コロナ禍によって飲食店をはじめスポーツ競技場、コンサートホールなどあらゆるところで客数が減っていますが、それでもお店や会社、団体を維持していかなければならないため顧客へ高付加価値のサービスをどうやって提供するかを模索しています。スポーツ競技団体やアーティストも会場チケットの収益モデルが崩壊し、その代わりとなる配信先や収入源を求めているのです。
今後は、現在行っているウィズコロナの生き残りにかける試行錯誤を、アフターコロナの投資に変えていかなければ融資を受けることも返済することもできません。政府も海外へ向けて日本発のコンテンツをライブ配信することを促進させるために、コンテンツグローバル需要創出等促進事業費補助金を令和2年度の補正予算として878億円を計上するなど、コンテンツ制作の支援を行なっています。
しかし、こうした補助金や融資がこの先、何度あるかは未知数です。それぞれの新しい収益モデルを構築するためには、技術の導入やコンテンツの導入などへ早急な投資が必要になっているといえるでしょう。
第3章 ゆっくりと移行するアフターコロナ社会でのVRへの期待
これから数年間はウィズコロナの状況は続くとみられ、顧客は新たな娯楽的コンテンツを切望しています。その中でVRが果たす役割は小さくありません。しかし、VRがてのコンテンツを満たすことも難しいため、リアルとVRの混合的なコンテンツが望まれます。それには業界という枠を超えた収益モデルの開発が急務です。
今後の数年間を経て、ウィズコロナはアフターコロナへと着陸していくはずです。それまでに、安全に人が集まれるリアルな場所が必要になります。そこで安全にVRを多人数の人たちと楽しむというカタチを構築し、収益化することもひとつの復興策として位置づけられると考えられます。