コロナ禍において、世界中で「日常」という概念が大きく変わろうとしています。
これまでの長い人類の歴史の上でも、感染症のパンデミックは世界的に多くの人の消費活動や生活構造を変えてきました。過去に数千万人~数億もの人命を奪ったとされるペストの蔓延では、宗教観や社会構造の変革が起きたともいわれています。
新型コロナウィルスによって、世界中が混乱の渦に巻き込まれているいま、世界の需要は「便利」「快適」から、「安全」「安心」を求める動きへと移行しているのです。
今回は、いま世界中で人気が爆発している「自転車」の需要について、ウィズコロナとアフターコロナの観点から解説していきます。
ウィズコロナ・アフターコロナのニューノーマルが自転車になる
公共交通機関が発達している日本では、ほとんどの人が電車やバスをつかって通勤や通学をしてきました。しかし、コロナウィルスの蔓延によってこれらの日常の足は3密の原因ともいわれ、収入や消費も落ち込む中で、いま自転車が見直されています。
実際に、自転車部品の世界シェアの70%以上を占めるといわれるシマノの株価は、2020年3月の14000円台前半から急上昇し、2020年11月には最高値を更新し25000円近くまで上昇。
これは、世界的な自転車の需要の急増を示しており、日本でもこの動きが今後顕著に現れるものと考えられます。
電動アシスト自転車の台頭
自転車の需要はここ数十年の間に、自家用車や電車、バスなどの公共交通機関に追い抜かれてきました。
これまでの自力で漕ぐタイプの自転車は、坂道や長距離の移動には結構な体力が必要なため、数百メートルから数キロ圏内の移動にしか使えないというデメリットがありました。
これでは現実的な移動手段として利用するには不便が多く、極近隣への移動でも車を使うといった流れが当たり前になっていたのです。
しかし、ここ数年のリチウムイオン電池の技術進歩と低価格化によって、電動アシスト付きの自転車が一般的に普及しはじめ、自転車のデメリットは大きく改善されました。これによって、自転車業界に大きな波が押し寄せて始めていたのです。
近年、世界の市場で自転車の売れ行きは右肩上がりの成長をみせ、2020年も自転車の市場規模は約7%近くの成長をみせると予測されていました。しかしコロナ禍の影響により、その予想を大きく上回る成長と伸び率を示したのです。
これは、電動アシスト自転車の台頭と共に、コロナ禍の交通手段における「密」を避けるために自転車を利用する人が増えたことに他なりません。
また、働き方改革によるフレックス出勤やリモートワークの推奨によって、働く人の意識も大きく変わりつつあることも大きな要因といえるでしょう。それはコロナ禍で、これまでの自分のライフスタイルや健康管理を見直し、より積極的に身体を動かそうとする人が増えたためです。
現在の予想では、2023年までの間に世界では1000万台ほどのEV車(電気自動車)が流通する見込みですが、電動自転車の流通は3億台を優に超えると見込まれています。
脱炭素社会の目標がさらに自転車を後押しする
最近になり、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにすると発表した日本政府ですが、このような動きは世界各国でも活発になっています。これは世界中の国々だけではなく、各個人にまで浸透しており、気候変動問題や環境問題の意識によって、エコで安全な乗り物の自転車に注目が集まっているのです。
このように、コロナ禍で加速した自転車人気ですが、コロナウィルス蔓延の終息と共にブームが終わるのかといえば、そのようにはならないでしょう。
電動自転車の快適性と、ロードバイクのような爽快さを知った人は、ガソリンなどの他力だけで走る車やオートバイ、密を覚悟しなければならないバスや電車から距離をとるでしょう。そして、環境に優しく、安全で安心な乗り物で、エンターテインメント要素もある趣味としても楽しめる自転車社会が来ることが予想されます。